多重下請けの弊害の例
解体工事の中間業者が多ければ多いほど工事費用が増える多重下請けの弊害の例として、以下、河北新報社から実際の仙台市の例を引用いたします。是非ご覧ください。
※記事は、河北新報社から引用
仙台市発注解体工事 赤字で安全面不備 業者、警備員偽装も
仙台市が発注した東日本大震災による損壊建物の解体工事で多重下請けが横行した問題で、元請けや下請け上位業者に多額の工事費を抜かれた施工業者が、現場で重機を誘導する警備員を雇えなくなるなど、安全対策がおろそかになるケースがあったことが2013年1月29日、複数の業者への取材で分かった。
業者は現場の道路使用許可を得るため、警察署から作業員と通行人の安全を確保するよう指導される。一部の例外はあるが、業者は警備会社から専門教育を受けた警備員を雇い、重機などの誘導をしなくてはならない。
ある業者が昨年秋に施工した解体工事は下請け5社が連なる「5次下請け」。請負額は1坪当たり2万円前後で採算割れだった。従来の工事では1日1万円前後で警備員を雇い、重機などの誘導を任せていたが、この工事では赤字幅が拡大するため雇わなかった。
業者はホームセンターで作業着を買い、解体工事の作業員に着せて警備員に偽装。作業員は作業の合間に重機や工事車両の誘導をしたという。
業者は「素人の誘導で事故がなかったのは幸運だった。安全ではないと分かっているが、赤字の工事を請け負っている以上、警備員を雇う余裕がない」と証言する。
別の業者が昨年施工した工事は「4次下請け」で、赤字にはならなかったが、利益は出ない額だった。前回の工事は採算割れしており、利益を出そうとして作業の安全のために使わなくてはならない重機をレンタルしなかったという。
業者は「経費を削らないと赤字がかさむばかり。現場の安全性に影響しないよう、多重下請けの構造を改善してほしい」と訴える。
<仙台市発注の解体工事>
国庫補助事業で市民や中小企業が所有する建物の解体費を負担する。全壊や大規模半壊などが対象。昨年9月末までの期限内に申請が約1万1000件があった。今月末見込みで約1万件の解体工事が終わり、約210億円が支出される。元請け受注は、仙台建設業協会の会員業者と宮城県解体工事業協同組合の2ルートに分かれ、業者選定は協会や組合に任せられる。
暴力団関係者ら介在 仙台市発注解体工事の多重下請け
仙台市が発注した東日本大震災の損壊建物の解体工事で多重下請けが横行した問題で、暴力団の関係業者や実態のないペーパー会社が一部工事の下請けに入り、解体工事費が不明になるトラブルがあったことが2013年1月28日、複数の関係者への取材で分かった。多重下請けで多額の工事費が抜かれる実態を知った地元業者が敬遠し、施工業者を集めるためブローカーが介在するようになったという。
複数の業者によると、市が2011年秋に発注した住宅解体工事は元請けの下に7社の下請けが連なる「7次下請け」になった。下請けの上位から中位にかけ、ペーパー会社数社、暴力団関係業者が入った。
解体工事費は暴力団関係業者まで渡ったが、それ以降の下請け業者に支払われず、不明になった。実際に工事を施工した業者は作業員の賃金などの実費を自ら負担した。複数の業界関係者は「工事費は最終的に暴力団関係者の口座に入った」と証言する。
一方、昨年秋に発注された市中心部の建物解体工事は「5次下請け」になった。本業が建設業や解体業でない2社が下請けに入り、この2社に工事費を抜かれたため、施工業者は採算割れした。
背景として、複数の業者は多重下請けの構図の中で暗躍するブローカーの存在を挙げる。ある業者は「仙台の解体工事の実態を知った地元業者が請け負いを拒むようになった」と解説。「施工に応じてくれる業者が必要になり、ブローカーが現れた」と語る。
別の業者は「悪質なブローカーは施工業者をだますように仙台に連れてくる一方、暴力団やその周辺が関係する建設業者やペーパー会社を下請けの中間段階に入れ、工事費を中抜きさせた」と明かす。
発注者の仙台市震災廃棄物対策室の担当者は「解体工事費は元請けまでが公金。下請け間の問題は民間の商取引の話」として関与しない考え。「暴力団関係者は介在していない」と説明する。
ある捜査関係者は「仙台市は暴力団に対する警戒感や排除意識が他の自治体より低い」と指摘している。
ブローカー暗躍、県外業者集める
仙台市発注の解体工事では、悪質なブローカーにだまされる形で施工を請け負った業者も少なくない。
「復興のため仙台で仕事をしないか」。東日本にある宮城県外の解体業者の事務所を2011年夏、ブローカーの男が訪ね「1坪当たり3万円で採算は十分に取れる。作業員宿舎と重機、その置き場も用意してある」と誘った。
ブローカーは条件を保証するような書類も業者に見せた。業者は仙台市の解体工事の施工を引き受けた。
業者が現場作業員を確保して仙台に来ると、ブローカーが指定した場所に作業員宿舎や重機はなかった。書類も偽物と分かり、すぐにブローカーの携帯電話に連絡したが、つながらなかった。
ブローカーが仲介した解体工事は、多くの業者が下請けに連なっていた。坪単価も約束の3万円ではなく、約2万円。結局、採算割れした。
後で調べると、ブローカーと親しいとされ、解体、建設業の実績がほぼないペーパー会社が上位の下請けに入り、工事費を抜いていたという。
業者は「震災復興工事で詐欺まがいの被害に遭うとは思わなかった。仙台市の解体工事は怪しい筋に公金が流れていると実感した」と振り返る。
ある業界有力者は「悪質なブローカーや暴力団関係者は金の流れが不透明な公共事業を見逃さず、介在してくる。仙台市の解体工事は格好の獲物になった」と指摘する。
[仙台市発注の解体工事]
国庫補助事業で市民や中小企業が所有する建物の解体費を負担する。全壊や大規模半壊などが対象。昨年9月末までの期限内に申請が約1万1000件があった。今月末見込みで約1万件の解体工事が終わり、約210億円が支出される。元請け受注は、仙台建設業協会の会員業者と宮城県解体工事業協同組合の2ルートに分かれ、業者選定は協会や組合に任せられる。